検査項目の説明

当クリニックの検査

 当クリニックでは、迅速に採血結果を解析し、診療時間内に院内測定の項目についてはお渡しできるようにしています。診察時間内の説明には限りがあり、患者さんから検査値の意義について説明してほしいといったご意見を多数いただきました。これまでは、3-4か月おきに行う肝臓病教室内で扱ってきましたが、HPの新設に伴い、検査項目の説明を記載することにしました。
 但し、この検査データの読み方は、医学生に講義する場面においても難しい分野です。なぜなら、病気と採血データは一対一の対応ではなく、採血を介して病態を把握するのに、測定の仕方や測定値の特性、日内変動など、様々な要素が影響するため解釈が難しい場合も多くあります。そうした条件下で、より効率的な的確な病態把握に繋げるのが採血検査の役割です。様々な測定値での異常値に対して考えられる疾患を記すと、患者さんが不安にならないか危惧しています。あくまで採血データは診断ツールの一つで、問診や他の検査と併せて判断していきますので、採血データのみの自己判断だけはなさらないでください。患者さんが検査の測定意義が少しでもご理解いただければクリニックとして光栄です。是非、自身のデータと見比べて、参考にしてください。

図:検査項目の説明

WBC:白血球数

 白血球(white blood cell)は生体防御に際した免疫を担当する細胞である単球(マクロファージ)、リンパ球、好中球、好塩基球、好酸球の5種類を含んだ総称的物質を指します。白血球数は個人差が大きく、また一個人内でも短時間で変動する特徴があります。
 白血球が上昇した場合、まず感染症と生理的現象がないかを考えます。喫煙、運動、興奮、不安、月経、出産などのストレスや、寝不足でも一時的に上昇します。アレルギー反応をはじめ、がんの骨髄転移・浸潤、膠原病、血液疾患など様々な理由により白血球は増えるため、他の臨床所見とあわせて判断する必要があります。

RBC:赤血球数

 赤血球(Red blood cell)は、血液細胞の1種であり、酸素を運ぶ役割を持ちます。成人であれば全身におよそ3.5-5リットルの血液があるため、体内の赤血球の総数はおよそ20兆個であり、これは全身の細胞数約60兆個の1/3に当たります。体内の細胞にくまなく酸素を供給するために膨大な数の赤血球が存在します。骨髄では毎日2000億個弱程度の赤血球が作られて、その寿命は約120日で、120日の間におよそ20-30万回に渡って体を循環して酸素を供給し、古くなると脾臓や肝臓などのマクロファージに捕捉され分解されます。
 赤血球が異常に多くなる病気は、赤血球増多症、あるいは多血症と呼ばれています。
高度になると、血液の粘稠度(粘り気:高くなると血液がドロドロに)が増加し、顔面紅潮や皮膚のかゆみが出ることがあります。さらに症状が進むと、体中の血管内に血栓ができる可能性が高くなることが問題となります。慢性的な呼吸不全(睡眠時無呼吸など)や心疾患、高度の喫煙などで体が低酸素状態になると、赤血球の産生を促進する造血因子エリスロポエチンの産生が増加して赤血球数が増加します。特に脂肪肝患者に睡眠時無呼吸症候群が合併しやすく、赤血球増多の有無で慢性的な呼吸不全がないかを臨床判断するのに有用です。真性多血症という血液疾患もあります。

HGB:ヘモグロビン濃度

 ヘモグロビンは、赤血球中に含まれる赤い色素で、別名、血色素とも呼ばれています。鉄を含む「ヘム」とタンパク質の「グロビン」が結びついてできています。血液中のヘモグロビンは肺で酸素と結びつき、血管の中を通って全身に酸素を運ぶ重要な役割を果たしています。
 ヘモグロビンが低いと「貧血」と診断され、貧血になると全身の細胞に酸素が運べなくなるため、頭痛や息切れ、めまい、疲れやすさ、集中力の低下などといった症状が出現します。原因としては鉄分不足による鉄欠乏性貧血が最も多いです。特に女性だと月経過多による出血がみられることがあります。消化器疾患としては消化管出血の可能性を考慮します。更に、過度なダイエットや偏食をしていると、鉄分不足に陥ってしまうことがあり注意が必要です。

HCT:赤血球容積率

 ヘマトクリットとは血液に占める赤血球の割合を示します。一番多いのは、血液中の水分が少なくなることで、赤血球の割合が高くなる脱水症状です。多血症が疑われる場合やストレス性でも高値となります。生後間もない頃は成人時の値よりも高い値を示し、15才頃になると成人の値に近づいてきます。低い場合は、貧血を疑います。
 また、ヘマトクリットは1日の中で血液成分やホルモン分泌量の影響で変化が生じます。ヘマトクリットの日内変動は朝方は高く、夕方以降は低くなる傾向があります。

MCV:平均赤血球容積

 MCV (Mean Corpuscular Volume)は、ヘマトクリットを赤血球数で除した値であり、血液中の一つの血管内赤血球の大きさを表します。
 MCVが高い場合、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症、巨赤芽球性貧血を疑います。臨床的に遭遇するのは、飲酒マーカーとしてのMCV高値です。慢性の過剰飲酒時にエタノールおよび中間代謝物アセトアルデヒドによる赤血球膜脂質組成の変化により上昇します。 断酒後正常化するのに2~4ヶ月が必要です。アルコール多飲者が自身のアルコール飲酒量を過少申告しても、この値で見抜くことが出来ます。MCVの上昇に比例して食道がんや咽頭がんのリスクも高くなるため、節酒や禁酒が出来ているかを判断するマーカーとして重要です。
 MCVが低い場合は、鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧血、慢性感染症等を考えます。

MCH:
平均赤血球ヘモグロビン量

 MCH (Mean Corpuscular Hemoglobin) は、ヘモグロビンを赤血球数で除した値であり、赤血球1個あたりに含まれるヘモグロビン量の平均値を表します。貧血の原因を特定するために使用されます。例えば、MCHが低い場合は貧血が原因でヘモグロビンの数が減っていることが示されます。

MCHC:
平均赤血球ヘモグロビン濃度

MCHC (Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration)は、ヘモグロビンをヘマトクリットで除した値であり、ヘモグロビンの濃度の平均値を表します。MCHCは、貧血の原因を特定するために使用されます。例えば、MCHCが低い場合は血管内の赤血球に含まれているヘモグロビンの量が少ないことが示されます。

PLT:血小板数

 血小板(platelet)は、血液に含まれる細胞成分の一種です。血栓の形成に中心的な役割を果たし、血管壁が損傷した時に傷を治す役割があります。平均寿命は8~12日で、寿命を迎えた血小板は主に脾臓で破壊され、一部は血中でも破壊されます。血小板の約1/3は脾臓に存在しています。
 血小板が低値になる原因としては、さまざまな病気や薬剤の副作用、栄養不足などが挙げられます。例えば、血液疾患や自己免疫疾患、肝硬変、各種の薬剤、過度のアルコール摂取、ビタミンB12や葉酸の不足などがあります。
 また、アルコールには血小板凝集抑制効果が知られており、飲酒によって血小板の凝集が抑制されることが関係していると考えられています。ただし、この効果は飲酒1時間後には消失して4時間後にはかえって増加し、リバウンド効果があります。

LY#・LY%:
リンパ球数・リンパ球%比

 細菌感染では好中球が高くなるのに対して、ウィルス感染ではリンパ球が高くなります。また、このリンパ球は、好中球と相対した役割があり、最近注目されています。
 好中球には交感神経が働いたときに分泌される「ノルアドレナリン」の受容体があり、交感神経が緊張すると増加します。一方、リンパ球には副交感神経が働いたときに分泌される「アセチルコリン」の受容体があり、副交感神経が優位になるとリンパ球が増加します。つまり、自律神経のバランスを考える上で、両者は重要です。日中の活動時には交感神経優位になり好中球の割合が増え、夜間の睡眠時や休息時には副交感神経優位となりリンパ球の割合が増えるという日内変動が見られます。
 肥満をベースにした脂肪肝は、日中の交感神経が鈍り、副交感神経が優位で、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくなされていないMost obesity known are low in sympathetic activity.の頭文字をとってMONALISA症候群が知られています。確かにリンパ球割合が多い傾向にあります。一方で、寝不足などのストレスによってリンパ球は激減することもあり体調によって変動します。一方、がん細胞に対して働いてくれるのはリンパ球であるために、がんに罹患された方は、好中球の割合が増えてリンパ球の割合が少ない人が多い傾向があります。好中球が過剰に増え、リンパ球の数が極端に減っている場合、免疫力が落ちている病態が考えられます。

MO#・MO%:
単球数・単球%比

 単球(Monocyte)は、白血球の一種で、最も大きなタイプの白血球です。マクロファージや、樹状細胞に分化することができます。単球が高い場合は、慢性感染への応答、自己免疫疾患、血液疾患、特定のがんでみられることがあります。

GR#・GR%:
顆粒球数・顆粒球%比

 顆粒球(granulocytes)は白血球の分画の一つで、自然免疫系を担う細胞であり、細胞質内に特異顆粒が存在することをさします。これは、多形核白血球とも呼ばれ、核の形が変化して、通常は3つの小葉に分かれている特徴があし、これにより、単核無顆粒白血球とは区別されます。多形核白血球という用語は、顆粒球の中で最も多い好中球を指すことが多く、顆粒球の増加が主に細菌性感染を示唆します。他の種類(好酸球、好塩基球、肥満細胞)は小葉の数が少なく、分布も少ないために、当クリニックの白血球3分画測定器では、好酸球だけの測定は困難なために、アレルギー反応などの評価は困難です。また顆粒球は、骨髄で顆粒球形成によって産生される為に、骨髄形成の評価にも有用です。

RDW-CV:
赤血球分布幅変動係数

 (この項目は臨床的意義より研究的な意義が強く、当クリニックの精度の高い測定機器では同時測定されている関係上提示しています。他施設では表示されていない場合が多いです)
 RDW-CVは、赤血球の中でも赤血球分布幅変動係数といい、赤血球体積の不均一性を示します。
 臨床的には貧血時の緊急対応に参考とします。例えばHbが低く、MCVもRDWも正常となると、同じ大きさの赤血球が急激に減少したことが考えられ、出血の可能性を考えます。逆にHbが低くても、MCV低値、RDWが上昇していれば、鉄欠乏性貧血などの真っ性貧血が疑われ、緊急性は低いと判断します。

RDW-SD:
赤血球分布幅標準偏差

(この項目は臨床的意義より研究的な意義が強く、当クリニックの精度の高い測定機器では同時測定されている関係上提示しています。他施設では表示されていない場合が多いです)
 RDW-SDも、赤血球の中でも赤血球分布幅標準偏差といい、赤血球体積の不均一性を示します。

MPV:平均血小板容積

 (この項目は臨床的意義より研究的な意義が強く、当クリニックの精度の高い測定機器では同時測定されている関係上提示しています。他施設では表示されていない場合が多いです)
 MPVは平均血小板容積といい、血小板の大きさの指標です。

PCT:血小板容積率

(この項目は臨床的意義より研究的な意義が強く、当クリニックの精度の高い測定機器では同時測定されている関係上提示しています。他施設では表示されていない場合が多いです)
 PCTは血小板容積率といい、一定の血液量に対する血小板の割合を示します。

PDW:血小板分布幅

 (この項目は臨床的意義より研究的な意義が強く、当クリニックの精度の高い測定機器では同時測定されている関係上提示しています。他施設では表示されていない場合が多いです)
 PDWは血小板分布幅といい、血小板容積の不均一性を示します。

P-LCR:大型血小板比率

 (この項目は臨床的意義より研究的な意義が強く、当クリニックの精度の高い測定機器では同時測定されている関係上提示しています。他施設では表示されていない場合が多いです)
 血液中の大きな血小板の割合を指します。 一般的に、大きな血小板の割合が高い場合、出血や血栓の病態がみられる可能性が高くなります。

ALB:アルブミン

 アルブミンは肝臓で合成され、血液中のタンパク質の約60%を占めています。体内の水分バランスを維持したり、ALBは栄養素や薬物の運搬にも関与しています。また、ALBは免疫機能の調節にも関与しており、体内の炎症反応や免疫応答に重要な役割を果たしています。
 アルブミン値が低下している場合、肝臓の機能障害や栄養不足などを考えます。Alb の半減期が14-21日より直近の病態に左右されない栄養状態が把握できますが、より最近の病態把握には、総コレステロール(半減期 2.5日)やコリンエステラーゼ(半減期 11日)が使われます。腎臓の問題や炎症や感染症、腫瘍が原因でアルブミンが下がることもあります。他のマーカーと併せて評価します。
 肝臓においては、過栄養や脂肪肝の状態で上昇しますが、病気は進行して、線維化や肝硬変がみられ、肝予備能が低下した状況では、肝でのアルブミン合成が出来ず低下していきます。肝病態の把握には欠かせない項目です。

GOT:トランスフェラーゼ(肝酵素)

  GOTは、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(Glutamic Oxaloacetic Transaminase)の略で、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(Aspartate Aminotransferase)と同義です。GOTとGPTは、肝機能の障害の中で肝細胞の評価をする上で最も注目する項目です。生体内でアミノ酸代謝に関与している酵素で、逸脱酵素と呼ばれており、組織になんらかの障害があると組織中のGOTやGPTが細胞外に漏れ出て、血液に流れ出すために高値となります。
 GOTは心>肝>骨格筋>腎に多いと考えられ、GPTは肝>腎>心>骨格筋の順です。肝臓の評価においては、GPTが優先されるのはこのためで、GPTのほとんどは肝臓由来です。一方で、GOTだけ高く、GPTが正常の場合は注意が必要です。心臓や骨格筋由来の可能性を考える必要があります。男性の方が女性より高値で、臥位より立位で高くなります。GOTは運動や溶血で上昇しやすい点も臨床的に重要です。細胞の体積が増えすぎると赤血球の膜が破れて中のヘモグロビンが流出することを溶血と言います。採血時にスムーズにいかないと溶血が起こってしまいます。
 組織学的単位で肝臓をみると、肝小葉のどこに局在する肝細胞が障害されたかによって、血中に逸脱する酵素が異なると考えられています。肝臓を3つのzoneに分け、その局在で病態を考えてみます。肝小葉(acinus : 細葉)は門脈血流によって、門派周辺域(zone l)、小葉中間帯(zone 2)、小葉中心域(zone 3)に分けられ、zone l~2では酸素や栄養の豊富な血流が流れ、zone 3では酸素分圧の低い血液が流れます。したがって、血流障害などが原因の低酸素による障害を受けやすいのは中心静脈周囲に位置するzone 3であり、循環不全に伴う血流障害による低酸素性肝障害の場合はAST>ALTを呈することが知られています。(ASTはzone3に多く、ALTはzone 1 に多いといわれます)。また、zone 1の肝細胞は、ミトコンドリアを多く含み、糖新生、脂肪酸のβ酸化、アミノ酸・コレステロール合成に関与することなどから、非アルコール性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis : NASH)では ALT>AST が多いといわれています。一方で、肝炎ウイルスに対する免疫反応は門脈域がメインで生じるため、慢性肝炎のときは比較的ALTの値を指標にすることが多いです。アルコール関わる酵素(ADHやALDH)や薬物の代謝に関わる酵素(チトクロームP450)はzone3に多い為、AST優位の肝障害がみられます。
 また肝小葉全体では、ASTがALTの2~3倍存在するため、健常人ではAST>ALTが一般的に正常な肝臓の状態を示します。

図:肝臓zonation

GPT:トランスフェラーゼ(肝酵素)

 GPTはグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ (Glutamic Pyruvic Transaminase)の略で、アラニンアミノトランスフェラーゼAlanine Aminotransferaseと同義です。
 肝細胞の膜の透過性が亢進した場合や、細胞死を起こした場合には、肝細胞に豊富に含まれる GOTやGPTを代表とする酵素が血中に放出され、高値になります。
 ここで大切なことは、膜の透過性亢進によるAST・ALTの上昇の場合、肝臓予備能の指標〔アルブミン、PT(プロトロンビン時間)、黄疸など〕に影響を与えない点です。またAST・ALTが上昇しない肝細胞障害のタイプがあり、例えば転移性肝がんに代表されるように、肝細胞と血流・栄養の競合を伴う占拠性病変では、腫瘍の影響で肝細胞は消失しますが、細胞内のタンパク質はあまり血中に放出されない状態で細胞死を迎える(アポトーシスと呼ばれる)為、AST・ALTの上昇をあまりみられません。肝硬変の状態で、肝臓の萎縮したケースでAST・ALTが上昇しないのも同じ理由です。
  AST・ALTの特徴と上昇パターンは急性肝炎の経時的な変化を追うのに重要です。 肝臓ではASTはALTの3倍程度の含有量があります。また、ALTの方がASTよりも逸脱しやすく、半減期はASTが約16時間、ALTがその3倍の48時間程度と考えられています。したがって肝細胞障害の急性期には肝臓に多く含まれるAST優位な上昇を、慢性期になれば半減期の長いALT優位の上昇を示すことが多く、LDHなどと組み合わせることで肝炎パターンの程度や今後の変化を予測でき、治療の立ち位置を明らかにできます。また、肝硬変にまで至ると、いったんASTやALT量の変動が落ち着いた後の肝障害となり、再びAST優位の上昇を示すようになります。
 2023年6月に肝臓学会で奈良宣言が出され、GPTが30U/lを超えた場合は、肝炎の可能性を考え、専門機関にかかるように啓蒙活動が行われました。施設の基準値内であっても、GPT30U/l以上は肝臓が正常ではないことが明らかで、これですぐに肝硬変に至るわけではないですが、自分の肝臓を労わるきっかけにしていただけたらと思います。

LDH:乳酸脱水素酵素

 LDHは細胞の壊死、組織崩壊に伴って血中の活性が上昇します。肝臓以外でも様々な臓器に分泌しており、由来臓器によるアイソザイム(分画)パターンが異なります。LDH1,2増加する場合は、悪性貧血、心筋梗塞、溶血性貧血が考えられ、LDH2,3増加の場合は、悪性リンパ腫、筋ジストロフィー、肺癌、白血病、膠原病の可能性を LDH5増加は肝臓由来が多く、肝炎や肝がんの可能性を考え、他に骨格筋の損傷なども考慮します。

ChE:コリンエステラーゼ

 コリンエステラーゼは肝臓で作られる酵素で、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの2種類があります。アセチルコリンエステラーゼAChEは、別名「真性コリンエステラーゼ」とも呼ばれ、神経組織や赤血球、筋肉組織に存在し、神経伝達に関係する働きをするアセチルコリンを、コリンと酢酸に分解する働きをします。ブチリルコリンエステラーゼBuChEは、別名「偽コリンエステラーゼ」とも呼ばれ、肝臓、血清などに存在し、血液検査などで測定するコリンエステラーゼとは、主にブリチルコリンエステラーゼのことを指します。
 アルブミンと同様に栄養状態を評価する指標で、コリンエステラーゼが上昇する疾患に、脂肪肝、糖尿病、ネフローゼ症候群があります。脂肪肝では、特に体重増減と連動してこの値が変動する場合は肝脂肪化の程度と相関します。ネフローゼでは、アルブミンとの分子量の違いから、コリンエステラーゼが高く、アルブミンは尿排泄され低く検出されます。
 低値は、肝機能不全による低下(肝硬変や肝不全)、栄養失調、がんや慢性の消耗性疾患、有機リン中毒などで、ChEの活性が阻害された場合などに見られます。薬物中毒の疑いがある場合は、ChE値の測定は必須になります。
 脂肪肝病態を考えた場合、ChEが上昇から低下に転じたタイミングが病態的には非常に重要であると考えます。当クリニックでも、この値を大切にモニターします。

GGTP:γグルタミルトランスペプチターゼ

 γ-グルタミルトランスフェラーゼ(ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、γ-glutamyltransferase)は 肝細胞や毛細胆管の細胞膜に結合して存在する膜酵素で、腎臓の近位尿細管、膵臓、肝臓等に多く存在していますが、血中濃度の増減に影響するのはほとんどが肝胆道由来のものといわれています。GOTやGPT等とは異なり、細胞からの逸脱酵素として血中に漏れ出るだけではなく、胆汁のうっ滞(胆汁酸の界面活性作用により、膜結合性γ‐GTPが可溶化し血中に遊出する)や、毛細胆管上皮細胞におけるγ‐GTPの酵素誘導など、いくつかのメカニズムで血清中のγ‐GTPが上昇すると考えられています。同じ胆道系酵素にALPがありますが、γ‐GTPとALPの両者が高値の場合は肝臓内の毛細胆管レベルの障害を示しますし、ALP は正常値にもかかわらずγ‐GTPが上昇している場合は、胆管上皮細胞の障害による逸脱ではなく、酵素誘導により血清中の値が高くなっていると可能性を考えます。(アルコールや薬剤など) アルコール関連肝疾患では著明に上昇し、飲酒量と相関すると考えられていますが、約20%にpoor responderといって、γ-GTPが全くアルコールの指標にならない方がいます。γ-GTPが高くないからいくら飲んでも大丈夫というのは、間違った思い込みなのです。
 最近注目されているのがγ‐GTP上昇の原因の1つに脂肪肝MASLDがある点です。 非飲酒者によるγ‐GTPの上昇は内臓脂肪蓄積や脂肪肝と相関し、肝臓におけるインスリン抵抗性を反映している可能性があり、初期の酸化ストレスマーカーとして、脂質や血糖など代謝因子が影響していると考えられています。

HbA1c:ヘモグロビンA1c

 赤血球の寿命は脊髄でつくられ脾臓で破壊されるまでの120日程度で、毎日新しい赤血球の産生と破壊が繰り返されています。そのため、ヘモグロビンA1c(HbA1c)は検査前1から2ヶ月における糖化ヘモグロビンの割合が反映され、過去1-2か月前からの血糖の平均値が確認可能です。
 HbA1cは赤血球の寿命に影響する為、赤血球寿命が短いと糖にさらされる時間が減り、HbA1cは低めになります。貧血、大量出血後、輸血後などはHbA1cは低めになります。高齢者や鉄欠乏性貧血では造血能が低下し、赤血球寿命が延びた時、実際の平均血糖よりHbA1cは高めとなります。
 赤血球寿命が伸長・短縮するため、HbA1cが血糖コントロールの指標として使用できないときには、グリコアルブミンを測定しHbA1cでは反映しづらい短期間の急激な血糖変動の指標を評価することもあります。
 HbA1cが6.0%未満が正常範囲となります。6.5%以上になると「糖尿病型」となります。6.0~6.4%の場合は「境界型」といい、糖尿病の疑いが否定できない状態です。日本糖尿病学会による『糖尿病治療のガイドライン2022-2023』では、HbA1cのコントロール目標値を以下のように定めています。
血糖正常化を目指す際の目標:6.0%未満、合併症予防の目標:7.0%未満、治療強化が困難な際の目標:8.0%未満

TG:中性脂肪

 中性脂肪(TG)とは、3本の脂肪酸とグリセロールから作られており、肉や魚、食用油などに含まれている物質のことです。
 脂肪肝がTGが肝臓に沈着する病態である以上、TG管理は非常に重要です。TGは、油脂類や糖質の過剰摂取により促進されます.特に,フルクトース含有量の多い果物やスクロースを多く含む菓子類の過剰摂取に注意することが大切です。アルコールの摂取量も減らすことも有用です。
 TGの研究は近年ようやく注目され始めた分野です。食事の影響を受けやすいと考えられており、2022年動脈硬化性学会より、空腹ではない状態で行った血液検査(随時採血)のTG値が175㎎/dL以上の場合も、脂質異常症と診断されることになりました。 PPERαアゴニストであるパルモディアというTGの内服薬もあり、私も中性脂肪高値の脂肪肝に有効であることを論文化しています。(M.Kikuchi, Usefulness of pemafibrate for non-alcoholic fatty liver disease with hypertriglyceridemia, Clinical and Experimental Hepatology, in press.)

TCHO:総コレステロール

 総コレステロール(TC)は、血液中に存在する脂質の一種で、HDLコレステロール(高密度リポ蛋白コレステロール)、LDLコレステロール(低密度リポ蛋白コレステロール)、VLDLコレステロール(より低密度リポ蛋白コレステロール)の合計値を指します。 TCレベルが高い場合、動脈硬化や心臓病のリスクが高く、健康的な生活様式や食生活、適度な運動などを通じて、コレステロールレベルを適切にコントロールすることが大切です。
 最近では、TCよりもその内訳であるHDLコレステロールやLDLコレステロール等の測定意義が向上しています。当クリニックの院内検査では、TC、TG、LDL-C、HDL-Cの4つの項目のうち3つが分かれば、計算式で算出できるFriedewaldの式 LDL-C=TC-HDL-C-TG/5という関連式を使用しています。その為、TG400以上の場合、NonHDL-C=TC-HDL-Cと言う違う計算式を使い、その基準はLDL-C+30mg/dlとして算出します。

HDLC:HDLコレステロール

 HDLはHigh Density Lipoproteinの略で、高比重リポタンパクという意味です、HDLコレステロール基準値は40㎎/dl以上で、これを下回ると血管の弾力性が低下するリスクが高まるといわれています。余分なコレステロールを回収して肝臓に運ぶリポタンパクの一種で、血管壁にたまったコレステロールを取り除いたり、動脈硬化を抑えたりする働きがあるため、善玉コレステロールと呼ばれます。
 アルコール飲酒により、HDL-Cが上昇することは有名ですが、善玉と考えられているHDL-Cが高すぎる方が時々います。コレステリルエステル転送蛋白(CETP)欠損症という疾患もあり、形状がいびつなHDL-Cもカウントしている為に正常に働くHDL-Cは少なく、動脈硬化性病変のリスクになると考えられています。頸動脈エコーなど動脈硬化検査をお勧めしています。

LDLC:LDLコレステロール

LDLはLow Density Lipoproteinの略で 低密度リポタンパクという意味です。血液検査で測定される重要な項目であり、動脈硬化や心血管疾患のリスク評価において重要な役割を果たしています。LDLコレステロールは全体の70~80%が肝臓など体の中で作られ、残りの20~30%が食事から摂取されています。LDL-コレステロールの上昇は、コレステロールの血管壁への沈着を促進させる作用を示し、血管壁のアテローム形成を増長し、動脈硬化や心筋梗塞の発生の危険度が上昇します。
 年齢を重ねると上昇する傾向にあり、血液検査で定期的に確認することが大切です。
食事療法としては卵・魚介類・肉類(肝臓)の摂取量を抑え、食物繊維、不飽和脂肪酸、大豆たんぱく質を多くとる。有酸素運動で脂肪の燃焼を測ると同時に、筋トレでの基礎代謝亢進やストレッチなどと併用したバランスの良い運動療法をすすめています。

TBIL:総ビリルビン

老廃した赤血球から脾臓で間接ビリルビンが産生され、アルブミンと結合して肝臓に運ばれ、肝細胞内でグルクロン酸抱合されることによって脂溶性から水溶性に代謝された直接ビリルビンが胆汁として十二指腸に排泄され、腸内細菌の作用によりウロビリノーゲン、ステルコビリンとなって体外に排泄、ないし一部は腸肝循環によって再吸収される。 肝胆道疾患で黄疸が出現するときには、必ず肝細胞障害ないし胆汁うっ滞が存在する(指摘できる)はず。したがって、ビリルビンのみ上昇するなど、その他の肝胆道系酵素の異常が顕著ではない場合には、肝臓以外の要因を考える必要がある。
 はっきりした肝障害はないのに黄疸がある患者さん、そういったときの総ビリルビンは 2~3 mg/dL 程度で、確かにAST/ALT比やALP/ γ‐GTP比は正常値である。多くの場合、これは体質性黄疸である。総ビリルビンだけが上昇している場合には、ぜひ直接ビリルビンも測定する必要がある。体質性黄疸の場合、直接ビリルビンは正常。すなわち間接ビリルビンのみの上昇がみられる。 診断のためには、溶血がないことや、胆管での機械的閉塞がないことを確認して、空腹時採血と食後の採血を比較する。体質性黄疸では空腹によって間接ビリルビンがさらに上昇することが特徴である。

ALP:
アルカリフォスファターゼ

 ALPは胆道系(胆嚢・胆管)の上皮細胞(毛細胆管)の細胞膜に多く含まれるエネルギー代謝にかかわる酵素の1つです。したがって、この上皮細胞が炎症や胆汁の流出低下などで破壊されると、血液中にたくさん出てきて高値になるため、肝臓や胆道の変化(結石や腫瘍)を調べる検査の1つとして利用されるます。総胆管結石や腫瘍による閉塞性黄疸が生じると、胆管上皮細胞の破壊によりALPは基準値の数倍に上昇することがあります。また、胆汁の流れが滞ることにより胆管内圧が上昇するような、薬物性肝障害や原発性胆汁性胆管炎といった疾患では、黄疸ととも上昇します。
 ALPの難しいのは、臓器に非特異的な点です。肝胆道系疾患以外に、骨代謝亢進、食後(血液型B型かO型に見られる)、妊娠などで増加します。異常値をみられた場合、アイソザイム(分画)を調べ、原因を絞り込むことが出来ます。ALP1と2は肝臓-肝・胆道の閉塞などで出現、ALP3は骨生成疾患などで上昇し、ALP4は胎盤由来のために妊娠時に上昇し、ALP5は小腸由来のために脂肪食後,肝硬変などで上昇すると考えられています。