ロコモティブ症候群

ロコモティブ症候群

はじめに

ロコモティブ症候群 内科領域においては、メタボの治療や管理を行うことは重要であり、将来的な心血管イベントや、脳梗塞などの動脈硬化症を予防する観点においては、特に30-60歳代からの予防管理を行うことが重要と考えます。しかし、いくらメタボの管理を十分に行っていても、転倒して骨折したり、寝たきりになってしまっては決して有意義な人生を送っているとは言えません。
 私は、生活習慣病管理と同等レベルに、運動器機能を維持することが重要であると考えています。いわゆるメタボとロコモは表裏一体であり、一括管理することが大切です。
 
 "加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態"を"フレイル"と呼ばれ、身体的フレイルの原因疾患として、サルコペニア(骨格筋量や質の低下)が主体であると考えられています。しかし実際には転倒・骨折といった骨・関節疾患が介護を要する主要要因となっているのは明らかです。一方で、ロコモという概念が日本整形外科学会から提唱され、その定義は運動器障害によって移動機能の低下を来たした状態とされています。高齢者の衰えを全人的に把握するためには、運動器疾患全体を身体的フレイルの主要な原因して位置づけ、ロコモ予防こそが身体的フレイル予防に繋がることを十分に理解する必要です。

 当クリニックは、メタボと同時に、ロコモに目をやり、加齢による衰えを全人的なアプローチから予防していく、日本で初めてのクリニックです。

筋肉か、骨か

inbody580 当クリニックでは、体成分、特に筋肉や脂肪量、水分量を測るInbodyという機械があります。左右の上半身、下半身、体幹部に分けて、筋肉量や脂肪量が部位別に評価できます。また、同機器で骨ミネラル量を測定することによって、骨の健康状態がわかります。DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)という骨密度検査で使用する測定値と相関しており、骨粗しょう症の拾い上げに有用です。
 ロコモ評価に重点を置いた場合、まず、筋肉量の評価と握力検査による筋肉の質の評価が重要だと思います。骨病変に対する予防は、食事療法などもいわれていますが、筋肉を強化して転倒や骨折を防ぐことがより現実的だと思います。つまり、骨の老化を筋肉でサポートしていくことが、ロコモ対策の基本です。当クリニックでは、Inbodyによる筋肉量、脂肪量評価を積極的に行うと同時に、関節の可動域や骨の状態、脳からの神経支配など運動器全般の障害を評価する、ロコチェックを使用し、ロコモの早期発見に努めています。

Inbody

筋肉量、筋肉の質に着目

 筋肉量をみても、標準値(健常者)は50歳を超えると急激に筋肉量が減少します。メタボリック症候群の一つである脂肪肝患者はさらに深刻で、健常者と比べてさらに10歳若い40歳代からすでに筋肉量の低下がみられています。

 40代からの早い段階で、メタボの予防と同時に、ロコモ対策を打つことが、長寿の秘訣ではないでしょうか。骨粗鬆症は、ほとんどが女性にみられますが、年齢に応じて骨密度が低下してしまいます。勿論、骨粗鬆症に対しても予防や治療が大切ですが、それ以上にもっと早い段階から、骨を支える筋肉を鍛え、強化することがより大切であると考えています。そこで当クリニックでは、InBodyで上半身や下半身、体幹での部位別筋肉量や脂肪量を測定したり、位相角や骨ミネラル量の測定からロコモ対策を早期から介入出来るように診療に力を入れています。

Inbody

まずは、ラジオ体操から
はじめよう

ラジオ体操 運動の重要性、基礎代謝を向上させることがメタボやロコモ予防、そして健康寿命を延ばす上で重要であることを説明してきました。では、普段運動していない方が、体を動かすきっかけとして、どんなことから始めたらよいでしょうか。まず、気軽に始められる方法としては、ラジオ体操をお勧めします。1928年、昭和天皇即位記念事業の一環としてラジオ放送でスタートしたこの体操。もうすぐ100年の歳月ですが、“呼吸と姿勢”を意識し、丁寧に行うことで、科学的な全身運動に繋がると思われます。運動強度として4メッツ(サイクリングや卓球レベル)ですが、継続して行うことで簡単な筋肉トレーニングや有酸素運動にもなり、骨密度が高まるデータも出ています。日本古来の伝統である“ラジオ体操”を是非見直してみて下さい。
 日常生活での軽い運動の習慣づけ(Non-Exercise Activity Thermogenesis(非運動性活動熱産生):NEAT)も運動療法の動機づけとして重要です。。階段を使ったり、庭掃除や子供とのキャッチボールなど。ごく簡単のことで構わないと思います。私も毎朝1時間、子供と体操やキャッチボールをしています。また、長時間の座位は不健康であり、時々立って動いたりしてみて下さい。海外では、中腰の椅子に腰掛けて会議する企業もあるようです。
 ウォーキングなどの有酸素運動だけが強調されますが、運動強度を意識したレジスタンス運動も大切です。特に、ハムストリング(太ももの裏)が基礎代謝に関わる最も大切な筋肉と考えられており、スクワット運動やジョギング中に軽い上り坂を入れるだけでも大分違います。真向法によるストレッチ運動を組み合わせ、有酸素運動、レジスタンス、ストレッチの 3つ要素をバランスよく組み合わせることが有効と考えます。

運動とミトコンドリア
機能の向上

 運動して基礎代謝をあげることは、科学的に説明すると“良質なミトコンドリアを増やすこと”です。筋肉細胞のミトコンドリアが増えれば、ミトコンドリア内で多くのエネルギー(ATP)が作られ、基礎代謝があがる訳です。運動が出来ない方では、いかにしてミトコンドリア機能を高め基礎代謝を維持していくかが問題になります。私が注目している成分としては、コエンザイムQ10やNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)、5-ALA(5-アミノレブリン酸、通称ファイブアラ)といった成分があります。筋肉のミトコンドリアに作用することで筋肉増強に繋がり、メタボやロコモの改善に寄与すると考えられています。一方で、脳ミトコンドリアへの作用による認知症予防やアンチエイジングの世界では長寿サプリとしても期待されています。こうしたサプリを上手に使うことも、健康維持に大切なことです。

運動で消費するのは、
糖なのか、脂肪なのか

 最近頂いたご質問から、“運動時に消費されるのは、糖分と脂肪どちらなのか”というご質問にお答えします。答えは両方なのですが、運動強度によってどちらが多く消費されるかが変わります。瞬時の短距離走などは糖が多く使われ、ランニングなどでは脂肪が沢山消費されます。脂肪を消費できるのは筋肉だけなので、脂肪を減らしたいなら、筋肉を強化し、育てることが重要なのです。

サルコペニア・フレイル

 サルコペニアは筋肉減少症、フレイルは加齢による可逆的な虚弱状態を指し、当クリニックが注目するロコモティブ症候群と共通項が多く見られます。中高年世代では筋肉量は徐々に減っていきます。運動療法は、有酸素運動と無酸素運動とストレッチの3種のバランスが重要と言われているように、筋肉を維持に適度な運動が重要ですが、歩行のような有酸素運動は筋肉の異化を招くため、やりすぎは禁物です。一方、軽い負荷をかけて行う無酸素運動(いわゆる筋トレ)が筋肉の維持に有効と考えられています。食事を控えて運動をしないでいると、筋肉の異化が進み筋肉減少による体重減少からサルコペニアを招き、さらに体力低下からフレイルに進行します。また、筋肉は水分を維持するスポンジの様な働きも持つため、筋肉の減少は脱水症になりやすい体質の原因にもなります。