肝臓内科

当院での脂肪肝診療の
すすめ方

脂肪肝グローバル診療とは

 沈黙の臓器である肝臓は、脂肪がついたとしても無症状であり、採血で肝機能異常を示すのは35%のみです。つまり、超音波をしない健診では3人に2人は肝機能正常として見逃されている可能性があります。知らぬ間に潜伏した脂肪肝をどのように見つけ出すか。当クリニックでは、最新鋭の先端機器Fibroscanを使って、肝脂肪量を数値化し(定量といわれます)、正確に診断できます。健康診断で使用する超音波検査では検者の見た目で判断する(定性といわれます)ので正確性に欠くこともあり、また重症度まではわかりません。Fibroscanでは235dB/m以上を脂肪肝ありとし、300dB/mを超えると高度脂肪沈着と定義しています。
 では、脂肪肝ありと言われたら、どうすべきなのか。実はこれが難題です。なぜなら、脂肪肝の原因は多様化しており、複合要素が絡むからです。
まずは、アルコール飲酒が適正飲酒量か(男性エタノール換算20g)、果糖やショ糖の取り過ぎ(バナナや柿などの果物の過剰摂取が多い)を控えた食事療法、ハムストリング(太ももの後ろの筋肉)を意識した運動療法の重要性などを提案します。それでも改善が困難な場合にサプリメントや医薬品の投与を考えていきます。
 この課程で重要なのが、体重管理です。日々の体重管理が最もわかりやすいモニターリングです。でも、これだけでは不十分で、なぜなら減量といって脂肪量と同時に筋肉量を減らしてしまっては基礎代謝量が落ちてしまいます。いかに脂肪量を落としながら、筋肉量は維持ないし増やしていくかが、メタボリック症候群(メタボ)の長期管理に重要です。当院では体成分組成計Inbodyを導入し、体内の脂肪量、筋肉量を部位別に測定できるようにしています(M.Kikuchi, 脂肪肝診療における、肝線維化脂肪化測定(FibroScan)と体成分分析装置(Inbody)の相関因子の検討,第21回日本病態栄養学会,2018.1.12.)。
 脂肪肝は、メタボ表現型の一部に過ぎず、木にたとえると枝の一部に過ぎない訳で、枝の剪定だけしていても、悪い枝はまた伸びてきてしまい、根幹からの治療が必要です。いわゆる“木を見て森を見ず”ではいけないわけで、脂肪肝の背後に起きている現象を捉える必要があります。一つは、メタボリック症候群の存在です。中でも、脂肪肝とは中性脂肪が肝臓に沈着する病態であることから考えても、中性脂肪を中心とした脂質異常症の管理は重要です。脂肪肝の予後規定因子である、動脈硬化病変の評価を同時に行い、将来的な心血管イベントを予防する、といったグローバルな脂肪肝管理が求められます。当院では、頸動脈エコーをはじめ、CAVIを用いた動脈硬化病変の評価を行っています。もう一点は、メタボと同時に、予防すべきロコモティブ症候群(ロコモ)です。ロコモは、運動器症候群といわれ、進行すると介護が必要になり、寝たきり状態から認知症になるケースもあるため、進行の抑制が重要です。コロナの影響で巣ごもり生活を余儀なくされ、社会生活への関わりの低下(社会的フレイル)や、栄養不足や運動習慣の減少から、負のスパイラルに陥り、特に団塊世代の後期高齢化が進んでいる現状において、今後問題視される可能性があります。当クリニックでは、高性能の体成分組成計Inbodyを導入しており、骨ミネラル量や筋肉量を測定できます。寝たきりに進んで行く前に早期に介入していく必要があります。こうした、総合的な脂肪肝ケアを、当院では”脂肪肝グローバル診療”と定義づけています。

疫学

私の専門分野である脂肪肝は、近年増加傾向で男性で健康診断の約45%に指摘され、コロナ前は52%と半数以上を占めていました。その後は42%まで減少傾向にありますが、グラフの右上に記したようにコロナ禍での受診者数の低下がみられ、新規健診受診者が少なかったことが影響されています。行動制限や運動不足の現状から、今後生活習慣病や脂肪肝が増える可能性が高いと考えており、いわゆる"巣ごもり脂肪肝"や"リモート脂肪肝"に対する治療が急務です。年代別にみても、男性では働き盛りの中高年、女性では閉経後に多い疾患です。(M.Kikuchi, COVID-19拡大後の二次健康被害~消化器疾患を通して, 第60回日本消化器がん検診学会主題特別企画, 2021.6.6., COVID-19拡大後の二次健康被害~肝疾患外来患者を通して, 第12回日本プライマリ・ケア連合学会, 2021.5.22., 肝疾患診療からみたCOVID-19拡大後の二次健康被害, 第107回日本消化器病学会ワークショップ, 2021.4.17., 肝疾患からみたCOVID-19拡大後の二次健康被害, 第49回日本総合健診医学会 シンポジウム,2021.2.19.)

東海大学東京病院健診センター脂肪肝陽性率 自験例未発表

放置されている脂肪肝

懸念すべき点は、採血で肝機能を示すALTでさえも、脂肪肝患者で異常値を示すのは36%のみで、残りの64%の患者さんは、採血での肝機能は正常です。さらに、"沈黙の臓器"である肝臓は無症状であり、超音波などの検査でしか判断できないことにあります。その一方で、健康診断などで脂肪肝が指摘されていても、放置されている現状もあります。

FibrScan(フィブロスキャン)の導入、初代FibroScanからのつきあい

FibroScan(フィブロスキャン) そこで近年注目されているのがFibroScanという肝臓の脂肪量と硬さを数値として測定できる最先端機器です。235 dB/m以上を脂肪肝として、初期脂肪肝の拾い上げや、重症度の判定にも有効です。さらに、硬さの測定で、肝硬変への進展具合も同時評価できます。(保険適応の検査機器で3か月に一回の測定で保険点数200点(3割の方で600円の負担)です。)
 私は、2004年にフランスから日本へ一台目が慶應義塾大学病院に導入された時、専修医としてこの機器の研究に携わりそれ以来、クリニック開業時2024年10月までで約一万件の測定を自らが行ってきました。技師や多数の医師が分担して使用している施設が多い中、自らが診察室内で測定し、その場で数値化されたデータを提示する事で、患者さんの治療目標やモチベーション維持にも繋がってきました。開業時に1万件を超え、国内で最も多く測定を行った医師として、今日までこの機器と共に、数多くの研究や学会発表を行い、肝疾患診療の現場に生かしてまいりました。当クリニックでも、引き続き診察室内に設置し、診療の右腕として役立てていきます。

FibrScan(フィブロスキャン)

全身管理の重要性

 さらに重視していることに、肝臓から離れた観点で全身を管理することも重要と考えています。脂肪肝患者は、全身性に心筋梗塞や脳梗塞の原因になる動脈硬化が進展しているケースがみられます。そこで、当クリニックでは、頸動脈の超音波や動脈硬化の検査を行い、動脈硬化の予防に努めます。
 こうした生活習慣病を改善する策として、まずはなるべく内服に頼らない治療を目指します。その一環として、筋肉の質の向上を図り、基礎代謝を維持することに着目しています。当院では毎回、体組成計で体重や筋肉量、脂肪量を測定(無料で提供)し、患者さん一人一人にあった運動療法を勧めます。生活習慣病は、投薬だけで済ましてしまっては一時の改善が得られても、将来的な未病予防に繋がらないことが多く、当院ではメタボ・ロコモティブ症候群(メタボ・ロコ)を同時に診療することで、将来的な寝たきりを予防し健康寿命の延ばすことに努めて参ります。

全身管理の重要性