- はじめに
- 初代FibroScan(フィブロスキャン)との出会い
- 沈黙の臓器、肝臓を採血だけで評価する限界
- 肝臓の硬さと脂肪の評価永遠のテーマ 脂肪量も同時測定可能
- FibroScan(フィブロスキャン)は 簡便で1分程度でわかる
- FibroScan(フィブロスキャン)は肝疾患以外でも効用
はじめに
当院の誇る最新機器FibroScanについて記します。大学病院には置いているとこもありますが、クリニックで設置は希少です。ガイドラインにはよく掲載されていて、診断や治療に重要視されています。それだけ正確にかつ簡便に肝臓の状態を掴めるからです。是非、FibroScanの魅力を感じとって頂ければと思います。2024年10月現在で自らの測定回数が一万件を突破し、国内で一個人がFibroScan測定した医師としては、日本一となります。他施設では、医師が測ることなく、検査技師が測定している施設が多い中で、自身の診察室で測る姿勢を貫いてきました。自分で測ることで、まずデータの再現性が高いこと、そして何より、臨床にすぐにfeedback出来、診療情報の向上に加えて、自身の診療スキルの向上にもつながっています。採血データは、採取した静脈血を介して肝臓の状態を見ているために、肝臓以外の要素が反映されてしまい、解釈が難しいこともあります。一方で、Fibroscanは超音波の先端についたバイブレーターを直接体表から肝臓に当てて測定するために、よりリアルに肝臓の状態を把握できます。自己研鑽としては、採血データでの予測をFibroScanの結果と照らし合わせ、答え合わせしてきたことが肝臓のより深い理解に繋がっています。
そして、元々肝硬度(Liver stiffness measurement:以下LSM) 測定という機器として2004年に上陸し、2011年より脂肪量(Controlled Attenuation Parameter:以下CAP) 測定機能が搭載されました。そして、ついに2021年11月にcCAP(Continuous CAP)機能といわれるより精度を高めたFibroscanが登場し、既存の脂肪量測定よりバラツキを解消し、精度の高い検査が出来るようになりました。今後脂肪肝測定も以前のCAPからより精度の高いcCAPへ変わっていくと考えられています。日本国内cCAP搭載FibroScan42施設のうち、クリニックにはまだ約10台しかなく日本有数の機器を導入しています。是非、最新鋭の測定器を使って、気になる脂肪肝を正確に診断し、撃退しましょう。
初代FibroScan
(フィブロスキャン)
との出会い
私が、2004年医師5年目、慶應義塾大学に戻り消化器内科を専門に決めた年に、日本での1台目がフランスから到着し、日本初の第一台目を目の当たりにしました。当初は肝臓の硬さを測定する機能しかありませんでした。今までは肝生検といって肝臓に針を刺して検体をとってきて、その組織を顕微鏡で見て肝像の硬さを判断していた時代に、痛みも苦痛もなく、皮膚から軽い振動を与えるだけで肝硬度が数値化してわかるFibroScanに出会ったときは感動しました。それ以来、クリニック開業時2024年10月までで約一万件の測定を自らが行ってきました。技師や多数の医師が分担して使用している施設が多い中、自らが診察室内で測定し、その場で数値化されたデータを提示する事で、患者さんの治療目標やモチベーション維持にも繋がってきました。国内で最も多く測定を行った医師として、今日までこの機器と共に、数多くの研究、学会発表を行い、肝疾患診療の現場に生かしてまいりました。2007年9月に初めて学会発表を行ってから、2024年4月までに小生が筆頭演者としてFibroScanが関連した内容で行った学術発表は国内内外を含め66を数えています(ランチョンセミナーや企業講演は除く)。当クリニックでも、引き続き診察室内に設置し、診療の右腕として役立てていきます。
沈黙の臓器、肝臓を
採血だけで評価する限界
肝機能を評価する方法に肝逸脱酵素トランスアミナーゼといわれるAST,ALTという項目があり、また肝臓を流れる胆汁の通り道である胆道系の障害を示すものにγ-GTPとALPがあります。この4項目は、肝臓診療の主軸ですが、この4項目が正常ならば肝臓は問題ないと言い切れるのか。実は、肝臓の持つ力(肝予備能といいます)はこの4項目では規定されません。例えば、肝硬変が進んだ状況では、肝逸脱酵素が上昇する程、肝細胞が正常に機能しているわけではなく、トランスアミナーゼが正常に近いケースも多く見られます。(この場合は、Alb(アルブミン:体の栄養状態)やPT(プロトロンビン:肝臓で生成される凝固能)などを使って判断します)こうした場合でも、FibroScanの肝硬度LSMで肝臓の線維化を測定することが可能です。肝硬変の合併症の一つである食道静脈瘤破裂の予兆を事前に検出することも症例として経験しました。また、初期の脂肪肝症例では、肝機能、胆道系酵素は全て正常であることが多く、採血での異常は1/3の症例に過ぎません。採血結果だけでは不十分で、FibroScanデータと併用することで診断能力が向上する訳です。
また、前夜に大量飲酒いる場合はLSMが高く出やすかったり、直前に食事摂取した場合CAP値も少し高く出る場合があります。こうしたバイアスがかかっても、患者さんを前にして照らし合わせることで、的確に解釈し臨床に繋げられるのです。自身で測定している強みなのです。
肝臓の硬さと脂肪の
評価永遠のテーマ
脂肪量も同時測定可能
肝臓の硬さとは、肝硬変に進展していないかを示すもので、数値化して測定されます。肝硬変に成り行く過程も数値で教えてくれるために、その予防や治療に重要です。肝硬度が上がり、肝臓に流れる門脈という血管の圧力が上がってしまうと、通常では流れるはずのない食道の付け根の血管に血液が流れてこぶを作ります(食道静脈瘤といいます)放っておくと破裂し大出血してしまう訳ですが、FibroScanデータの上昇がきっかけで静脈瘤の破裂を未然に防ぐことが出来た症例を何例も経験しました。また、肝疾患では肝硬変からの発癌リスクが高いために、FibroScan高値例から肝がんの早期発見につなげた例もあります。肝臓の硬さが数値でわかることは臨床的にもかなり有益な情報なのです。2011年に脂肪化が測定できる機能が加わったときは驚きました。まさに私が留学後に脂肪肝を専門とした診療に戻ろうとした矢先の出来事でした。今までは超音波で脂肪肝があるか否かしかわからなかったところが、数値化されたことで脂肪のつき具合が鮮明にわかるようになりました。脂肪の沈着が進んでくる過程で徐々に硬さが進み肝硬変になっていくといった脂肪肝病態の進展レベルを掴むのに画期的な機器であり、私の診療内容にまさに合致した機器でした。東海大学時代の治験に導入し、さらに前の勤務先の東京医療センターにも、そして当クリニック異動時に再導入となりました。まさに、自分の成長と共に歩んできた機器といえます。
そして、当クリニックで導入しているFibroScanは、高精度の脂肪量測定(cCAP)機能を搭載している点も特筆すべきことです。2022年日本導入直後に、前CAP機能との相関性につき報告しています(M.Kikuchi, CAP(Controlled Attenuation Parameter) とcCAP(Continuous CAP) の相関性について, 第95回日本超音波医学会, 2022.5.20.)。日本のクリニックでまだ約10施設しかなく、大変貴重な機器であなたの肝臓をお守りいたします。
FibroScan(フィブロスキャン)
データ管理表
FibroScan
(フィブロスキャン)は
簡便で1分程度でわかる
測定方法は、臥位で行います。服の上からの測定は不可能なので、右上腹部を肌がみえるようにめくっていただきます。肝臓は、右肋骨下縁から肋骨内にあります。呼吸を調整しながら息止めをしていただき、肝表面に近い皮膚から、先端にバイブレーターがついたプローブで軽い振動を送り込みます。痛さを感じるほどではないと思います。10回測定してその中央値をとり、1分程度で結果が出ます。赤字が肝臓の硬さ、青字が肝臓の脂肪量になります。硬さは8kPa以下が正常で15kPa以上で肝硬変の疑いとなります。完全な肝硬変は25-35kPaを示します。硬さ以外にも、炎症や鬱血、アルコール飲酒直後では上昇することもあり、注意が必要です。
肝臓の脂肪量は235dB/m以下が正常で、300dB/m以上が高度脂肪肝の疑いです。3か月に一回の測定が保険で認められている保険内検査項目で、保険点数200点(3割負担の方で600円を意味します)の保険収載が可能です。
特に脂肪肝の診断、進展評価には、この機器での測定は有用です。脂肪肝の病態として、まず、脂肪の沈着によりCAP値が上昇し、脂肪沈着が継続し炎症が及んでくると、LSMが上昇してくると考えられます。CAPが235dB/m以上で高い方は、LSMが上がってくる前にCAPを下げるために何が出来うるかを考えることが重要です。まさに、みえない肝臓を、数値としてみえる化した最新機器と考えられます。
データが電子カルテに反映されるわけではないので、プリントしてお渡しすることが難しく、ご不便をおかけしています。当クリニックでは右のようなデータ管理表を用意しています。是非ご活用下さい。特筆すべき点は、測定値をフォローするだけでも患者さんのモチベーションにつながり病態が改善していく点で、以前学会にも発表報告しました。
FibroScan
(フィブロスキャン)は
肝疾患以外でも効用
便利な機械ではありますが、データ解釈に難渋するケースもあります。私は日本に導入以降20年間のつきあいで熟知しているつもりですが、他施設から多くの質問をもらいます。まず赤字の肝臓の硬さですが、実は硬さ以外にも、うっ血や血管内圧の上昇なども影響します。心不全から肝うっ血をきたすことが病態生理上解明されていることから、最近では、肝臓が正常な心不全患者の心機能評価にFibrScanデータが使われています。又、アルコール患者の急性期には肝細胞が風船様に腫れるために、この硬さの値が見かけ上高く出ることを報告しました(M.Kikuchi, アルコール性肝障害の急性期におけるFibroscan肝硬度の意義,第34回アルコール医学生物学研究会 2015.1.29.)。
。アルコール性肝障害患者の重症度や、最終飲酒の時期を推定するのにも有用です。加齢性変化でLSMが微増することも報告しました(M.Kikuchi, 加齢からみた健常人における健診データと肝硬度測定、第17回日本抗加齢医学会 2017.6.4.)。こうした経験がFibroScanデータを読み解くのには重要であり、まさに長年の経験がものをいう検査であります。脾臓や膵臓にも測定する試みもされており、脾腫や膵炎の検査に使用できるか検討されています。脂肪量の方は、測定者によりばらつきが出るといったデータが出ております。当クリニックでは、それを防ぐ意味も含め、全て私が測定しています。