脂肪肝にお勧めする運動療法

脂肪肝の悪の根源は、
筋肉の質低下にあり!?

はじめに

 メタボリック(内臓脂肪)症候群とロコモティブ(運動器)症候群の同時予防を目指す当クリニックで、重要な役割を果たすのが筋肉です。時に筋肉の質を高めることが、今後の最重要課題と考えます。既存のロジックの逆転!新展開につき、ご説明します。

筋肉は20歳台がピーク、
そこから年率 1%低下していく

まず、自験データをお示しします。横軸が年齢で、縦軸が筋肉量になります。上段2つが右上肢、左上肢のデータで、中段が体幹部、下段が右下肢、左下肢です。まず、黒の線である標準値、すなわち健常者のデータをご覧下さい。上肢は、40歳を超えてから、下肢はもっと早期の段階から、すなわち30歳台から、筋肉量が低下しているのです。文献によると、 20 歳を超えると年率1%の筋肉の低下がみられると考えられています。年を重ねると、体の疲れや怠さを感じます。この筋肉量の減少こそが、その原因ではないでしょうか。次に赤線の脂肪肝患者さんのデータをご覧下さい。脂肪肝の方は40歳台から健常者と比べて急激に筋肉量の低下があり、特に下肢においては顕著で、その後も健常者と比し、低下し続けています(M.Kikuchi, 加齢からみた脂肪肝症例における筋肉量変化,第20回日本抗加齢医学会, 2020.6.)。筋肉量の減少、つまり基礎代謝が低下し、脂肪が燃焼できずに沈着している病態が、脂肪肝発症に大きく関与している結果です。
 筋肉の低下は簡単に起きてしまいます。実は、私も、不注意で左膝蓋骨(膝のお皿)骨折を起こし、手術した経験があります。膝を伸ばした形で2週間固定していたら、太ももの筋肉が痩せ細ってしまい、体重を支えられないぐらい筋力が低下しました。短期入院でベット生活だと足腰が弱るといった患者さんのお話を身をもって経験しました。一度低下した筋肉を戻すのは大変でしたが、ただゆっくりながら筋肉は必ず回復してくることを感じました。骨の強化は難しいですが、それを支える筋肉の強化は可能で、ロコモの予防の根幹は筋肉の強化にあることを実感しました。

図:筋肉は20歳台がピーク、そこから年率 1%低下していく

出典:加齢からみた脂肪肝症例における筋肉量変化.第20回日本抗加齢医学会.2020.

老化は足から 
まずは歩行スピードをチェック

 上記データからもわかるように、未病予防の観点からも下肢の筋力低下を意識すべきです。そこで、歩行スピード、特にピッチ(歩調)より歩幅が狭くなっていないかを確認して下さい。狭いと気になる方は、次のステップとして、右記の上段ロコチェックを行い、一つでも該当した場合は、下段のロコモ 25を行って下さい。 7 点以上はロコモティブ症候群と診断され、筋肉や骨、関節などの運動器の問題がないか、またはそれらの機能を見直す必要があります。

ロコモティブ症候群

出典:ロコチェック.整形外科学会.2011.

出典:ロコモ25.日本運動器科学会.2018.

ハムストリングス、
腸腰筋を鍛えるべし

 では、具体的にどこの筋肉を鍛えていくべきかをお話しします。まず、大切なのはハムストリングスといわれる大腿屈筋群、つまり太ももの裏にある、大腿二頭筋長頭、短頭、半膜様筋、半腱様筋の総称です。股関節を伸ばす時、膝関節を曲げる時に使います。走っていて急に止まる時に使われる筋肉と言った方がわかりやすいでしょうか。ハムストリングスに限らず、筋肉は使わないと硬くなります。股関節を支店とすると、股関節が伸展する動きは、骨盤が前方に動きます。骨盤を下方から支持するハムストリングが硬くなると、骨盤が下がり、後屈してきます。腹部前面の筋肉が働きづらくなり、ぽっこりお腹になってしまう訳です。これらの筋肉は運動パフォーマンス向上や基礎代謝の亢進に重要な筋肉と位置づけられています。スクワットや仰向けでおしりをあげる運動(図1ヒップリフト)をお勧めします。もう一つの筋肉は、腸腰筋です。インナーマッスルといわれ、体幹を支える大事な筋肉です。腸腰筋は、腸骨筋と大腰筋からなります。腸骨筋は骨盤の内側から股関節の内側についており、上半身と下半身を繋ぐ大事な筋です。大腰筋の付着部位は人間特有のしくみがあります。猿の筋肉との唯一の違いで、人が直立二足歩行を可能にした最大の要因が大腰筋の進化にあると考えられているのです。大腰筋の起始部は、全ての腰椎から始まり、恥骨隆起(骨盤部のグリグリ触れる部分)を介して股関節前面を滑車状に走行し、大腿骨の内側である小転子と呼ばれる部位に、腸骨筋と合流して太い腱となってついています。猿は恥骨隆起が低く、大腰筋の走行が直線的です。大腰筋のねじれ構造こそが、骨盤と背骨を繋ぎ、直立二足歩行を可能にした、人類が進化の過程で獲得した最大の武器なのです。是非、大切に鍛え上げて下さい。両足を前後に広げ、背筋を真っすぐに伸ばしながら、膝を曲げてくる(図2レッグランジ)と腸腰筋の張りがわかると思います。こうした、ハムストリングスとその拮抗筋である腸腰筋を鍛える方法の一つとして、以前より、真向法という4つの基本体操(図3)をご紹介しています。是非参考にしてみて下さい。

ハムストリングスと腸腰筋

ヒップリフトとレッグランジ

真向法. 真向法協会.

真向法. 真向法協会.

筋肉の質が大事、
“隠れ筋脂肪”を探し出す

 焼き肉に行っても、霜降り具合で味が大きく変わってきます。人間の筋肉も同じで、いくら筋肉量が多くても、筋肉内に脂肪が多ければ代謝は悪くなります。学生時代まで運動を活発に行い筋肉量が多かった方が、お仕事で忙しくなり、運動をしなくなると急激に糖や脂質代謝が悪くなり、脂肪肝になる方を見受けます。筋肉内に脂肪がたまり飽和状態になった結果、代謝しきれない糖質などが肝臓などに回り込み、結果脂肪肝になっていると考えられます。こうした病態から考えると、脂肪肝は、筋肉に脂肪がたまり、代謝できなくなった結果、肝臓に流れ着いた脂肪が悪さをした被害者なのです。え?脂肪肝の肝臓は被害者なの?びっくりされた方が多いかもしれません。それ程までに、運動で筋肉量を増やし、その究極論として筋肉の質を向上させることが重要なのです。そして“隠れ筋脂肪”の患者さんを見つけ出すことが、脂肪肝の管理や早期発見に重要であると考えます。
 ではどうやって筋肉の質を評価するのか、実はこれがまた問題です。CTやMRIで評価する方法はありますが、利便性が低い為、クリニック診療には不向きです。他の有用な評価法につき検討を重ねています。おそらく、InBody体組成計で計測できる位相角が重要な意味を持っているよう事を予想しています。

ウォーキングだけでは
筋肉は強化できない..
レジスタンス(筋トレ)の
重要性

はじめに

 脂肪肝管理には筋肉の質が重要という話で、メタボ、ロコモの観点からも筋肉を鍛えることが、健康寿命につながるといえます。“歩くだけでは駄目なのですか”、という質問を多く頂いたので、その質問に答えるべく、レジスタンス運動(筋トレ)について考えます。

運動の3要素:
有酸素運動、筋トレ、
ストレッチ

 まず、脂肪を燃焼しメタボや動脈硬化予防に効果のある有酸素運動、筋肉を強化して基礎代謝を維持するレジスタンス運動(筋トレ)、筋肉の回復や血液循環の改善を目的としたストレッチの3本柱をバランスよく行うことが、効果的な運動療法であるといわれています。
 万歩計やウェアラブル端末の普及で歩数が測定可能になり、運動時間より運動歩数が重要視されている現状も加わって、ウォーキングに対する受け入れが寛容になっているのは喜ばしいことですが、これが運動療法の全てだと考えている方は間違っています。現在の医学は様々な研究が進められており、電子万歩計が開発された1980年代の歩数こそ大事な運動療法という考え方は古すぎます。ウォーキングや軽いジョギングは、遅筋に多いとされるミトコンドリアを増やし、エネルギーを生み出すことが出来ます。ミトコンドリアの活性化は、脂肪を燃焼し、ダイエット効果が高まります。また、毛細血管が増生され、細胞への酸素運搬効率が向上してきます。ウォーキングすると体が軽く感じるのはこのためです。毛細血管への血流循環が高まると、血管の柔軟性や弾性力が増し、動脈硬化改善に寄与すると考えられています。よって、体格の良いメタボの方で脂肪燃焼を照準において有酸素運動を行う場合は有効な方法です。
 そこで、ミトコンドリアを工場、毛細血管を原料供給のパイプライン、筋肉を工場の敷地に例えて考えます。いくら、工場の数やパイプラインを増やしても、狭い環境下では生産性が上がらないのです。(参考文献:久野譜也著大腰筋を鍛えなさい)つまり、有酸素運動でエネルギー増生システムを構築しても、活動する場が充分に与えられないと、効率性が発揮できない訳です。さらに、筋トレを行うと、ミトコンドリアが毛細血管の近くに増えると考えられており、エネルギー産生能力も向上します。特に、スクワット運動やジョギング中に軽い上り坂を入れるだけでもだいぶ違います。一般的には、ハムストリング(太ももの裏)の筋肉が基礎代謝に関わる最も大切な筋肉と考えられています。
 ストレッチはどうでしょうか。真向法という古くから伝わる4つのストレッチを組み合わせた体操が知られており、著名人も健康管理に実践しています。凝った筋膜をはがし、血流を回復することで、血行障害改善や心身のストレス安定につながります。ストレッチは、あまり反動を付けずに、ゆっくりと筋や腱を伸ばす心地よさを感じながら行うことも重要です。静かにゆっくり伸ばしてあげることで、筋や腱にかかる負担を和らげようと、さらに筋肉を伸ばす反射が生まれると考えられ、ゴルジ腱反射といわれています。凝った筋膜をはがし、血流を回復することで、血行障害改善や心身のストレス安定につながります。静的なストレッチ(体の動きを止めて、筋肉を伸ばすストレッチ)は、体がクールダウンしやすいので、運動前の準備体操というよりか、筋トレの後に行うことが重要です。
 運動は、こうした有酸素運動と筋力トレーニング、ストレッチをバランスよく取り入れることが重要です。ハードルが高い人には、NEAT(非運動性活動熱産生)、つまり、階段を上ったり、掃除をしたり、子供と遊んだりといった、ほんの少しの心構えでスタートしていただければと思います。座り続ける時間を減らすことも重要で、欧米ではスタンディングミーティングでディスカッションする研究室もあるぐらいです。是非、自分の出来るところから始めてみましょう。

運動の3要素 正しい運動法

速筋と遅筋の違い

 筋肉の性能は、その筋肉の構成に関わる線維の種類によって違います。2つに大別され、持久力に優れた“遅筋線維”と瞬発力に優れた“速筋線維”です。日常生活で使う負荷の少ない動作では、ほとんど速筋線維は使われていません。人間の体は、遅筋線維につながる神経線維から優先的に活動させ、速筋は緊急事態に備えるものと考えられています。ミトコンドリアを増やしたり、酸素を運搬するミオグロビンといったタンパク質を多く含む遅筋線維は、エネルギーを効率的に産生して、疲れづらい特徴があります。一方で、速筋線維は、大きな瞬発力を発するものの、エネルギーの合成効率は悪く、疲れやすい訳です。魚に例えると、白身の魚であるヒラメなどは、日頃はじっとしていても、エサを食べるときに瞬時に動く為、速筋が発達しています。赤身のマグロなどは、遠洋で長く疲れないような遅筋が発達している、といった白身と赤身の違いをイメージするとわかりやすいかもしれません。
 アクチンやミオシンといった筋線維の構成蛋白は、遅筋より速筋で合成されやすく、また安易な負荷の少ないトレーニングでは筋肉の増強はあまり望めません。そして、もっと重要なことは加齢変化で、筋肉が減少する割合は遅筋より速筋の方が大きく、瞬発的に大きな力を出す能力がある速筋の方が老化しやすい訳です。速筋を鍛えて、筋肉を強化し、加齢現象を予防することが大切なのです。

図:速筋と遅筋の違い

ウォーキングは無意味!
筋肉の強化こそが、
メタボ・
ロコモ同時予防の要、
アンチエイジングの鍵

 ウォーキングや軽いジョギングなどによる有酸素運動は、メタボ単独や動脈硬化予防が出来ても、ロコモとの同時予防や抗加齢効果には及ぼしません。さらに、有酸素運動では、加齢により影響を受けやすい速筋を鍛えることは難しく、無酸素運動なる筋肉トレーニングによる速筋を中心した筋肉の強化が、いかに重要かがわかっていただけたでしょうか。
 一番無意味なウォーキングは、心拍数も上がらない状態で普段のペースで長時間歩くことです。1日1万歩も歩いているのに、全く脂肪肝が治らないという方を多く見かけます。CTをみると、歩いてるわりには、基礎代謝に関わる、腸腰筋や脊柱起立筋などの体幹部の筋肉が発達していないことがあります。背骨を支える筋肉は、将来的な寝たきりやフレイル予防にも非常に重要です。普通に歩いているだけではこうした重力に逆らう筋肉(抗重力筋)には筋肉はつかないのです。結果、歩きすぎると腰や背骨に負担がきて、腰が曲がり、いつしか腰痛や膝痛で動けなくなってしまいます。歩く時の姿勢(丹田に力を入れて歩く)、運動強度つまり、歩幅やピッチにも気を配り心拍数を適度に上げた状態で、的確な呼吸バランスを保つことが重要です。バスや電車で移動すれば、5~10分ですむところを、ウォーキングで30分~1時間かけて何も考えずにのんびり歩いていては、時間の無駄遣いをしていませんか。また、ウォーキングの後のアルコールは不健康の極みです。アルコールにより、筋肉の成長や回復の速度が遅くなり、また脱水症状を起こしやすいために運動後の飲酒は危険です。
 筋肉を意識した運動法については、ハムストリングス(太ももの裏)やインナーマッスルといわれる腸腰筋など、体幹を支える筋肉を中心に意識されたらいいと思います。適切なアミノ酸の摂取、特にロイシン、イソロイシン、バリンといった分枝鎖アミノ酸製剤や、ロイシンの代謝産物であるHMBをサプリなどで補充することも大切です。
 運動は、脳や心を安定させ、自律神経バランスへの影響や、筋肉が出すマイオカインへの影響、成長ホルモンの分泌、美肌効果、睡眠作用など、様々な効用が報告されています。勿論、無理は禁物ですが、(特に腰痛や膝関節痛の方は用心は必要ですが、)可能な範囲で、自身の生活の中に運動を取り入れてみてはいかがでしょうか。最初は、大それた事をせず、身近な簡単なことからでもいいと思います。
 喫煙が動脈硬化の危険因子といわれていますが、最近では、運動をしないことが、喫煙と同じぐらい、生命予後に関わる危険因子として扱われつつあります。メタボ・ロコモの同時予防をスローガンとする当クリニックとして、皆さんに提唱したいのは、運動、特に筋力トレーニングをもう一度見直して下さい。これこそが、アンチエイジングの鍵です。

“隠れ筋脂肪”を見つけ出す

 筋肉の量と共に質が大切です。残念ながら、現行の医療機器では、CTやMRIといった高額機器を除き、簡便な方法での筋肉の質を評価する有用な検査法はありません。知らぬ間に筋肉内の脂肪が増え、体全体の代謝機能が悪くなっている人がいるのではないかと考えています。脂肪肝もこうした代謝の悪循環のために陥った結果であると考えてもおかしくないぐらい、筋肉内の脂肪沈着がメタボそしてロコモ発症の引き金になっている可能性を疑っています。こうした“隠れ筋脂肪”を検出し早期に治療介入すること、それには、筋肉の質をいかに評価するかが重要と考えています。一方で、筋肉の量は体組成計であるInBodyで測定が可能です。
 InBodyで、筋肉量が少なく、脂肪量が多い方は、間違えなく筋肉内にも脂肪が多く、筋肉の質が落ちているのではないかと推測出来ます。InBody測定による全身評価は、当院では、診療内で重点をおいており、無料で測定しデータを提供しています。可能な限り測定データを提供し、ご自身の健康管理に役立てていただけたらと思っています。

Inbody

”巣ごもり脂肪肝”とは、
メタボ脂肪肝とは異なる

はじめに

 コロナの拡大は、行動制限から受診が遠のき、結果としてがん患者さんの発見の遅れが、予後に関わるとした話が、一人歩きしていますが、それだけなのでしょうか。未病予防や健康管理を大切にしてきた当クリニックの理念からすると、がんもさることながら、生活習慣に関わる、脂肪肝やメタボリック症候群の悪化こそが、今後の診療内容を大きく転換させる可能性が高いと考えます。
 明らかに脂肪肝症例は急増しており、国民の半数に迫る勢いと考えます。このデータも正確なものではなく、なぜかというと、依然として巣ごもりを続けているために、医療機関につながっていない脂肪肝も数知れない程多いからです。
 クリニックで診察する中で、通常の脂肪肝と異なる要因の脂肪肝が増えているのに気付くようになりました。脂肪肝の多くは、肥満傾向にあり、糖尿病や高脂血症、高血圧を合併して、いわゆるメタボが悪くなって脂肪肝になるメタボ脂肪肝が主流な訳ですが、最近の流行りは違います。クリニックに体成分組成計InBodyを導入してわかったことですが、コロナ禍の巣ごもりや運動不足で、筋肉量が減少している症例が多くみられます。筋肉が落ちると基礎代謝が低下し、脂肪が燃焼できにくくなります。筋肉量の低下は、質の低下につながり、筋肉成分にも脂肪が沈着してしまいます。基礎代謝の低下が脂肪肝の増悪につながるわけです。

ダイエット脂肪肝と病態が
似ている、新時代の脂肪肝

 2019年11月19日放送のNHKBSプレミアム ”美と若さの新常識”とう番組の中で、賢く痩せる!肝臓ケアテクニックとして脂肪肝の特集を組んでいただき、番組内容をプロデュースしました。若い女性に多くみられる急激な体重減少を伴うダイエットは、基礎代謝の低下をうみ、結果としてお腹周りや肝臓に脂肪がつきやすく、リバウンドしやすい、という内容でした。番組プロデューサーよりキャッチフレーズを一言で表現してほしいと言われ、“ダイエット脂肪肝”と名付けました。極端に食事を減らすような急激なダイエット(1ヶ月に3㎏以上)は、自身の体が飢餓状態と感じて、全身の脂肪細胞や筋肉からエネルギー源を放出してしまいます。筋肉が減少して代謝が落ち、体が消費するエネルギー量が落ちる結果、ダイエットをしているつもりでも、肝臓に脂肪が溜まりやすい状況になる、これが "ダイエット脂肪肝"です。
 新時代に増えつつある脂肪肝の病態と似ているように思います。但し、ダイエット脂肪肝の場合は、筋肉量を増強・維持することで改善することが多いですが、巣ごもりによる基礎代謝の低下は、筋肉量が減りつつある一方で、体脂肪量は逆に増えていることが多く、病態はさらに複雑です。通常の体重計では、プラスの脂肪量とマイナスの筋肉量が相殺されて、見かけ上正常のようにみえてしまうのも問題です。

お勧めのサプリメント

 筋肉や基礎代謝を維持するサプリはないかという質問をよく受けます。特に、コロナ禍の行動制限により、思うように外出や運動が出来ない状況でサプリメントの補助は有効でした。まず、私が担当した脂肪肝改善効果のあるスルフォラファンはどうかというお話をします。脂肪肝、メタボ改善効果は機能性表示食品になっていることも踏まえ、間違えのないものです。また私が特許を持つ、睡眠効果、メラトニンの産生亢進は、メラトニンの抗酸化作用も加わり、自律神経機能に関わると考えられています。ストレス管理や睡眠調整という面からも有用です。ロコモの観点からは、スルフォラファンが骨形成機能に関わり、骨強化作用があることがいわれています。確かにスルフォラファン内服している方に骨密度が低い方は少ないように感じます。次に、ミトコンドリア内でのエネルギー産生に不可欠な補酵素としてコエンザイムQ10といった成分があります。運動効率を上げ、抗疲労効果を兼ね備えている点や抗加齢作用もあり、注目されています。同じような機序で、カルニチンという成分もあります。これらは、基礎代謝をあげるのに有効と考えられます。一方で、筋肉そのものに肥大や増強効果を期待する成分としては、ロイシンの代謝産物であるHMB(β-hydroxy-β-methylbutyrate)やBCAA含有量の多い、アボット社のアバンドや味の素のアミノエールといったサプリをすすめています。市販で入手可能な粉プロテインは、筋トレなどの激しいトレーニング下に筋肉肥大を促すケースには有効ですが、落ちた筋肉を再構築している筋肉量が不十分な状況でプロテインを過剰投与すると内臓脂肪に変換されてしまうこともあり、注意が必要です。

スルフォラファン