はじめに
私の慶應時代の研究グループはアルコール性肝障害で、亡き恩師・石井裕正元慶應義塾大学消化器内科名誉教授のご指導の下、私がこの研究グループの末っ子に当たり、勉強してきました。アルコール学は、毒性をもつ成分の化学反応から生じる病態生理が重要で、その過剰付加や減量といったアルコール量の調節により病態が変化するといった特性をもち、飲酒行為に至る心理・依存の問題、社会背景や家族職場関係の影響など、まさに包括的・全人的な観点からの医師の力量が求められる究極の診療分野といえます。よって、この分野での知識は、他の病態生理や疾患診療や管理に応用できる部分があり、私も今でもアルコール患者さんから教えられることが沢山あります。そんな大事な分野でありながらも、医師・コメディカルが誠意を持って対応したにも関わらず、患者さんが抱える社会背景が大きすぎたり、依存や昏睡状態から、予期せぬ暴力や罵声を浴びせられて、苦い経験からもうアルコール患者を診たくはない、と考える医療者も少なくないのが現状です。前勤務先である東京医療センターでは、精神科やソーシャルワーカーなどの多職種でチーム医療としてアルコール患者さんを受け入れる体制作りをしました。医療者側も、この疾患と真剣に向き合うためには、診療の特性をよく理解した上で、その人にあった最善策を導くことが大切です。
ARLDの概念導入から
MetALDへ
消化器内科としてアルコール飲酒で問題になってくるのは、肝臓と膵臓、胃や食道などです。
アルコール性肝疾患(alcohol-liver disease:ALD)は、2018年、欧米から"アルコール関連肝疾患(alcohol-related liver disease:ARLD)としてこの病態が再定義されました(M.Kikuchi, アルコール関連肝疾患 alcohol-related liver disease(ARLD)臨床像の特徴, 第57回日本肝臓学会, 2021.6.18.)。従来アルコール飲酒量エタノールにして男性60g/日(日本酒換算3合)、女性40g/日(2合)以上で肝障害を示唆する所見がある場合をALDと考えていましたが、男性30g/日(1.5合)、女性20g/日(1合)以上といった少ない量でも肝障害が示唆された場合ARLDとして疾患介入していく点にあります。これにより欧州における肝疾患の半数以上が ARLD であるという報告もあり、より早期より治療介入が可能となりました。肝臓は沈黙の臓器のために、問題飲酒になる前の早い段階から治療していこうという趣旨です。気になる方は是非ご相談下さい。また、従来の禁酒治療以外に、まずアルコールを減らすといった"節酒"も治療の一端として考慮すべきというアプローチに基づくものと考えられています。その後、非アルコール側がNAFLDからMASLDへの病名変更された経緯の中で、ALDの略字に対する呼称を、アルコール性肝疾患(alcohol-liver disease)からアルコール関連肝疾患alcohol-related liver diseaseに変更(エタノール60g以上)して、新基準エタノール30-60g群をMetALD(MASLD and increased alcohol intake)と定義しました。大酒家といえない中等量飲酒群を今まで病態定義できなかった為、今後はこうした人達にどのような医療提供が出来るかがフォーカスされます。
ちなみに適正飲酒量は、日本酒換算1合/日、エタノールとして20g以下で変わりません。(女性ではその半分で考えられています)
多くの人にとって酒は、労働後の安らぎと解放感を与え、不安や悲しみを慰め、また豊作を喜び、神への感謝の捧げものでした。
アルコール飲酒と肝臓ケア
はじめに
酒は"百薬の長"といわれ、上戸の人を"我が意を得たり"とばかり勢いづかせたり、またある時は"万病の元"の汚名を着せられながら、人頻の歴史と共に今日まで脈々と継承されてきた、貴重な日本の文化遺産といえます。酒の功罪は、いつの時代も、人間にとって永久のテーマです。酒の効用としては、第一に嗜好品として、第二に冠婚葬祭における不可欠な要素として、第三にストレスを解放し、気分転換させるものとして、第四に様々な場面での人間関係を円滑にする、などが考えらます。室町時代には"飲酒の十徳"と"酒の十害"といった表現がされています。
十徳としては、
- 独居の友
- 万人和合す
- 位なくして貴人に交わる
- 推参に便あり
- 旅行に慈悲あり
- 延命の効あり
- 百薬の長
- 愁いを払う
- 労を労う
- 寒気に衣となる
が唱えられてきました。
一方で、不適切な飲酒が様々な健康被害をもたらすことは周知の事実です。アルコールにより引き起こされる様々な疾病の現状と問題、アルコールとのつきあい方について記します。
アルコールを飲み過ぎると
どうなるか
肝臓においては、飲酒を続けると肝硬変に移行します。個人差はありますが日本酒換算で1日5合以上を男性では約20年以上続けている人、女性の場合はその3分の2の飲酒量約12年程度で肝硬変に至るといわれています。肝硬変からの発癌は10年で約10%と考えられており、大量飲酒で起きる病態、特に飲酒で発がんがみられることを留意する必要があります。
日本人の特徴として重要なのは、約4割がアルコール代謝酵素の活性が失われていて、少量飲酒で赤くなるフラッシング反応が起こる点です。こういったフラッシャーの人は、長年の飲酒習慣で耐性が生じ赤くならなくなります。フラッシャーの方は食道癌、口腔咽頭癌のリスクが、フラッシング反応が起きない人と比べて高くなり、大量飲酒は勧められません。
膵炎についても、アルコールの障害でみられる疾患です。肝臓よりも少ない飲酒量で発症し、慢性化すると膵内に膵石という石が沈着したりして膵炎のコントロールが難しくなります。
飲酒後に左上腹部から背部痛が出現した場合は、膵炎を疑います。
また、 アルコール飲酒継続者は、胃や食道が荒れやすく胃カメラで時々チェックする必要する必要があります。
特に食道炎、十二指腸炎は多く見られます。肝硬変様に肝臓の線維化が進むと、肝臓に流れる血流が他の部分に回り込み、食道の付け根に静脈のこぶ(食道静脈瘤)や胃の全体が赤くただれて微小出血が続く(門脈圧亢進性胃症)などの病態が合併します。フラッシャー(アルコール飲むと代謝酵素が少なく、すぐに赤くなってしまう)の方が大量飲酒しているケースは要注意です。食道がんや舌がん、咽頭がんの合併率が高い為、内視鏡検査がさらに重要視されます。
他にも、アルコールによる臓器障害は全身に及びます。末梢神経障害や脳神経障害、大腿骨骨頭壊死、不眠症など多岐にわたります。
アルコール飲酒を続けている方は、必ず、内視鏡検査や腹部エコーを含む、1年に一回の全身検査を勧めてています。是非、ご相談ください。
禁酒、節酒指導
いくらアルコール性肝炎や膵炎、もしくは早期食道癌を内視鏡的に治療しえても、これらは枝葉の治療にすぎません。木の本幹である禁酒が達成されなければ、また悪い枝が伸びてくる訳です。禁酒こそが、唯一の確実な治療法であり病態を可逆性に改善させます。禁酒は、社会的背景の把握が不可欠で、家族、友人、同僚の理解協力を必要とします。こういった生活環境の整備に加えて、心因的な要素、精神的なサポートを必要とする場合が多いです。内科医のみならず、精神科医や心理療法士、ソーシャルワーカーなどの医療者にも協力を要請し、集学的な治療を行うことが重要です(M.Kikuchi, アルコール使用障害・依存症に立ち向かう多職種チーム医療:アルコール短期入院プログラムの発足,第55回日本肝臓学会総会ワークショップ, 2019.5.31.,
多職種チーム医療Tokyo Medical Center Alcoholic Program with Physicians(TAPPY)からみたアルコール関連肝疾患, 第43回日本肝臓学会東部会主題シンポジウム, 2020.12.3.)。
また一方で、少量飲酒が疾患を誘発する報告はなく、むしろ少量の飲酒は健康に働くことが認められてきています。アルコール性肝疾患には至らない健常者には、適正飲酒量(日本酒換算1合/日、エタノールとして20g)による節酒指導を行っています。医療サイドは"禁酒を"提言するのは簡単ですが、患者サイドから見ると一方的な禁酒指導がむしろ通院自己中断を生み、節酒指導から禁酒に繋げる方が、かえって介入の有効性が高いと考えられ始めています。
アルコールとFibroScan
こうした現状の中で、"沈黙の臓器"肝臓を評価するのにFibroScanは重要です。無意識に飲酒量が増えているのと同様に、肝病変は知らないうちに肝炎、肝硬変、肝がん発生へと進んでいきます。採血での肝機能検査に加えて、FibroScanでの肝臓評価を加えることで、肝病態を正確に把握できます。当クリニックでも、小生がFiboScan本邦上陸時より、20年以上同機器に携わっており、測定可能です。是非一度FiboScanによる肝臓評価をお勧めします。
コロナを経験し増える
アルコール問題
はじめに
2022年末から日本経済新聞から取材を受けていた内容が、2023年の2/22朝刊に掲載されました。反響があまりに大きく、翌週2/27のめざましテレビにも出演しました。コロナを経験して増える飲酒問題。日経新聞、めざましテレビで取り上げた内容を含めて、アルコールアディクション医学会理事の立場から解説致します。
アルコール性肝疾患死が
コロナ前と比べて1割増
取材を受けた新聞内にある、厚生労働省の人口動態統計によるグラフを見ていただくとわかるように、コロナ禍においてアルコール性肝疾患の死者数が増え続けています。コロナによる閉塞感、行動制限、通院中断など、コロナによる世相を反映しています。
では、アルコール消費量はどうでしょう。国税局酒税課のデータ(下記)では、2000年頃から頭打ちし、最近では減少しています。より安価な酒の登場(発泡酒や第三のビール)飲酒運転による規制、アルコールハラスメント、そして若者のアルコール離れが影響しています。
こうした中でなぜアルコール性肝疾患死が増えるのでしょう。この謎は、飲酒者が大きく2極化していることにあります。コロナを経験し、問題飲酒者が増えています。特にアルコールが好きな人は、テレワークで昼間から飲んでしまい、飲酒量が増えている現状があります。まだ、医療機関にたどり着いていない方も多いのではと予想され、今後の社会問題に発展する可能性を危惧しています(M.Kikuchi, コロナ禍におけるクリニック脂肪肝外来開設からみたアルコール診療体制の構築 第56回アルコール・アディクション学会,2021.12.17.)。どうか、周りでそのような方がいたら、一回外来受診を勧めてみて下さい。一方で、付き合い酒で会社帰りで飲んでいたような方は、むしろ飲む機会が減り、家族の強い監視の元、節制されている方も少なくありません。大きく2極化していた後、今後の動向が注目されます。問題飲酒者の悪化が、総数だけの変化では捉えられないのです。
加えて、増えつつあるのが、巣ごもり脂肪肝の影響です。飲酒だけではなく、いわゆるメタボの状況が悪化し、運動不足や過食が重なって、アルコールとメタボによるダブルの影響で肝臓に負担がかかり、脂肪肝などの変化が起きてしまう、こうした複合要素がさらに病態を難しくします。
「飲み過ぎ」コロナ下で悪化. 日本経済新聞. 20230222, 朝刊
アルコール依存症
スクリーニングCAGE 、 AUDIT
あなたは大丈夫?
2013年の厚生労働省の統計では、アルコール依存症患者は推計110万人いるものの、実際の医療機関に受診している方は4万人のみで、多くの方は、医療機関にたどり着いていない現状があります。本人が受診を拒否しているケースや、医者がアルコール患者を診たがらないケースもあります。コロナ禍においては、依存症の現状把握も困難ですが、もっと深刻な状況かと推測されます。まずは、ご自身でアルコール依存症スクリーニングCAGEテストを行ってみて下さい。 4項目中2項目以上該当する方はアルコール依存症が疑われます。次に AUDIT (Alcohol Use Disorders Identification Test) を行い、 15 点以上でアルコール依存症が疑われます。もし、該当する方は早めにご相談下さい。
ストレスの多い女性
飲酒に注意!
アメリカでのWebアンケートの結果で、コロナに関連した心理的ストレスが大きい人ほど飲酒量が多くなり、その傾向が女性に強いという結果(左グラフ)があります。また、最近私が解析したデータ(右グラフ)で、脂肪肝患者の内訳をみると、コロナ下では、女性において、非アルコールに比べてアルコール性の脂肪肝が増えています。ストレスの多い女性が大量飲酒を引き起こさないか、今後の注意点です。
女性は、アルコール代謝に関わるアセトアルデヒド代謝酵素の活性が男性の半分と考えられ、適正飲酒量はエタノール換算で10gです。(男性は20g)飲みすぎに注意しましょう。
Rodriguez LM, Litt DM, Stewart SH. Drinking to cope with the pandemic: The unique associations of COVID-19-related perceived threat and psychological distress to drinking behaviors in American men and women. Addict Behav. 2020
脂肪肝患者の性別内訳. 未発表自験例
大手の酒類メーカー
アルコールグラム表示
2021年3月から酒類メーカーで、アルコール度数とともにアルコール量を「グラム」で表示する取り組みを始めています。アルコールの種類も増え、グラム数での計算が難しくなっています。缶の表示をぜひ、チェックしてください。
もう一度再確認、
飲酒ルール 健康日本21
「アルコール対策」より
これを機会に自身のアルコールとの付き合い方を再度確認してみて下さい。そして、周りに、病院嫌いで一人でアルコールに悩んでいる方はおられませんか。一度、クリニックに相談してください。
アルコール飲酒はDNAの修復障害やアセトアルデヒドの毒性により、口腔がん、咽頭がん、食道がん、乳がん、肝臓がん、大腸がんのリスクが高くなります。喫煙者とあわせて、こうしたリスク因子をもつ方は、積極的に人間ドック・がん検診を受けましょう。
参照:「健康日本21推進のためのアルコール保健指導マニュアル」 社会保険研究所
健康ひょうご21県民運動推進会議 ・ 公益財団法人兵庫県健康財団.2020.
クリニックが果たす役割
私自身が慶應義塾大学消化器内科アルコールグループに所属し研究してきた経験を活かし、当クリニックで果たすべく役割を考え、クリニックで介入できる範囲内において積極的に治療して参ります。また必要があれば、東京医療センターのアルコールリハビリテーションプログラム(Tokyo Medical Center Alcoholic Program with Physicians:TAPPY)や久里浜アルコール症センターとの連携も考慮していきます。
当院でのアルコール診療に
対する取り組み
クリニック診療で、1内科臨床医がアルコール疾患を診る上での考えるべき事は、は、自分の限界を知り、果たすべき部分で社会貢献する点にあります。入院施設もなく、離脱症状の治療が出来る訳でもありません。こうした重症は、しかるべき入院機関、アルコール専門施設で治療すべきであり、全てを抱えこまないことが重要です。
前医の東京医療センターでは、3次救急病院で無制限にアルコール重症患者が来ました。手に負えないケースは必ず私が呼び出され対応していましたが、総合病院でさえもこの分野にどれだけの医療資源や診療体制が必要なのかを全く理解しておらず赴任当初は大変苦労しました。その後、精神科との連携、ソーシャルワーカー、精神科専門看護師をはじめ、多職種横断的な医療チームTAPPY(東京医療センターアルコールリハビリテーションプログラム)の編成に成功し(M.Kikuchi,Inter-professional and inter-departmental alcoholism rehabilitation program, Clinical and Molecular Hepatology, 2020;26(4),626-632.)、
こうした医療チームの重要性が日本国内、さらには世界からも注目され、私も韓国の学会に招待講演までさせてもらいました。(M.Kikuchi. Inter-professional and inter-departmental alcoholism rehabilitation program, The Liver Week 2020 Korea, Invited lecture, 2020.8.14.)
当クリニックで行えることは、アルコールでおきる臓器障害がどの程度なのか、肝炎(肝硬変・肝がん)、膵炎をはじめ、内科の立場から併存疾患を調べ管理することです。飲酒量を把握するための細かい問診(何をどのくらい飲んでいるのか)から始まり、飲酒の現状把握を行うための採血検査を行います、。当クリニックは肝機能をはじめとする一般採血がドライケムという分析装置を使って10分で測定できるといった特徴があります。アルコール患者さんは飲酒量を過少申告する癖があると言われています。でもご安心ください。アルコール学の研究や臨床に従事しアルコール学会の理事を務めており、この採血で、飲酒状態を見抜くことが可能なのです。そして、もう一つ当院の特徴は、FibroScanという肝臓の硬さ、脂肪量は定量測定できる機械があることです。これにより、肝臓の炎症の状態、肝硬変への進展度がわかります。もっと詳細な話としては、飲酒直後は肝硬度を示すLSM値は高く出やすいことを報告しています。(M.Kikuchi. アルコール性肝障害の急性期におけるFibroscan肝硬度の意義, 第34回アルコール医学生物学研究会, 2015.1)
アルコール依存の典型は、サルコペニア(全身の筋肉量減少と、それに伴う筋力低下)に繋がる病態です。当クリニックでは体成分組成計(inBody)の測定を通して、筋肉の低下を予防していきます。
そして、最も大切なのは、禁酒・節酒指導です。節酒薬の話は後程触れることとして、大切なのは、依存度を評価し、止めていく方向にもっていけるかです。最近の診療概念として“節酒”指導が認められるようになりました。勿論、重度の依存症や肝硬変などは、禁酒が必須であり、はじめから禁酒指導をすすめることで揺ぎ無いですが、最終的に禁酒に持ち込みたい過程に、節酒を挟むという診療スタンスが認められるようになりました。こうすることで、一方的に禁酒をすすめられるより、医療機関と繋がり、最終的な身体管理に結び付けることが可能であると考えられるようになりました。そして、下記にも記した、節酒薬の内科医処方が認められました。こうした新しい動きに対して、当院では、まず、AUDIT(アルコール依存スクリーニングテスト)を行い、8点以上にはアルコール日記を配り、また、YouTubeで節酒レクチャーを行っています。日記をつけることで減酒に繋がる方も多くいます。その上で、必要があれば節酒薬セリンクロの導入を考慮します。16点以上は、TAPPY(東京医療センターアルコールリハビリテーションプログラム)に依頼し、精神科に入院加療をお願いしています。依存度の高い症例は、久里浜アルコール症センターや昭和大学烏山病院、アルコール専門クリニックへ紹介しています。クリニックの果たす役割を明確にすることが大切と考えています。
適正飲酒量と節酒概念の導入
治療法はまず、アルコール量を管理することに他なりません。まず、適正飲酒量を定義しておきます。日本人のアルコール代謝能からみた節度ある適切な飲酒量を指します。1日平均で男性アルコール 20g 以下(女性は 10g 以下)を指します。エタノール量はアルコール度数xアルコール量 X0.8 (比重)で計算します。つまり、この式が示すように度数の強い酒を量を控えないとエタノール量が増えてしまう訳です。そして厚生労働省は 1 週間量として 140g 以下としています。
アルコール依存症や肝硬変、重度の膵炎の人は、禁酒であることに変わりはありませんが、節酒、つまり、適正飲酒量範囲に抑える事が、最近の治療概念として認められています。今までのアルコール指導は、やたらに禁酒ばかりを強い口調で浴びせる医者が多く、こうした指導が患者離れに繋がり効力がないと考えられるようになったからです。今までにアルコール患者の暴言や暴力を経験した方が少なからずいて、こうしたトラウマを引きずってアルコール飲んで体を壊したのは自業自得だと考える医師やコメディカルの見解もわからなくはないです。しかし、特にアルコール依存症は病である為、なかなか一筋縄には行かない点をお互い理解する必要があります。
今まで禁酒薬は精神科医しか処方できませんでしたが、最近節酒薬が内科処方(トレーニング認定後に)出来るように、当クリニックでも処方できるようになった点も重要です。節酒概念の導入により、より的確にアルコール指導を行い、医師患者関係を良好に保ちつつ、よりよいアルコールとの付き合い方、身体バランスの維持がはかれることが期待されます。勿論、禁酒症例には、節酒を飛び越えて、確実な禁酒に繋がるアプローチが必要なことには変わりありません。
今後の課題は精神科連携、
総合病院での禁酒リハビリテーションプログラムの確立
総合病院ではチーム医療によるアルコールリハビリテーションプログラムを多職種で作り上げ、そこを軸とした病診連携を強化することが重要です。東京医療センター時代に、先駆けとして多職種チーム医を立ち上げました。この領域については一人の医師で抱え込むことは困難であることを自覚しています。患者背景や生活環境まで踏み込んだ飲酒環境を根幹から遠ざけるための治療には、医療者、コメディカル、そして家族の協力が不可欠であり、社会全体で取り組むべき課題なのです。当クリニックも他施設と連携をとりながら、アルコール診療体制の一端を担えるように努力して参ります。
(上記内容は、第58回日本アルコール・アディクション医学会 2023年10月13日 シンポジウム アルコール使用症治療における精神科と内科の連携 で発表しました。)