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一日一万歩の根拠なし、歩く質を高めよう

 毎日一万歩も歩いているのに、ウォーキングの会に参加しているのに、なんで生活習慣病が改善しないのか。という質問をよく受けます。実は、ただ歩くだけでは、筋肉はつかず、歩き方によっては筋肉量が減少してしまいます。脂肪は燃焼することは言われていますが、筋肉が増え基礎代謝が上がるようなエビデンスはないのです。

 1960年代、万歩計を売り出す会社が国民の健康増進をスローガンに一万歩を掲げて、万歩計販売が促進した経緯があります。万という字が、人が歩いたり走ったりする形と似ているから、一万歩の目標がつけられたという一説もあります。医学は日々進歩しているのに、この時代の迷信に惑わされてはいけません。医師も不勉強と言わざるを得ません。生活習慣病が悪化したら“運動が必要だから歩け!”と言い放っているだけでは、アルコール依存症の人に“アルコールやめろ!”と短絡的に言っているのと何ら変わりません。

 私見としては、是非歩く質を高めてほしいと考えています。4000-5000歩でもいいので、質の高い歩き方をすることで、体幹部や足に筋肉がついてくると考えています。運動療法は、有酸素運動と無酸素運動(筋トレ)、ストレッチの3本柱のバランスが重要で、是非この歩くという動作にも、脂肪を燃焼する有酸素運動だけではなく3つの要素を組み込んでみたらいかがでしょうか。

 心拍数が適度に上がる、ピッチや歩幅を意識した歩き方が推奨されます。でも、この指導だけでは不十分だと考えています。腰痛や膝痛を起こさないような歩き方、重力の振り子モーメントを利用し腰や膝に負担をかけない歩き方を追求するべきです。膝を曲げすぎずに、股関節の柔軟性を使って足を踏み出すためには、腸腰筋の筋肉の使い方が重要であると考えています。HP内にも以前書きましたが、人間がサルから進化する過程で、腸腰筋の起始部が大腿骨の小転子に付着していることが、二足歩行を可能にし、二足で歩く生物に進化した訳です。この腸腰筋こそが、歩く質を高め、さらには生活習慣病管理に重要な筋肉と考えています。

 先日、今仙電機製作所という愛知県の自動車部品を基盤に医療器具を開発している会社の方が当クリニックを訪れました。腸腰筋に着目し、人の歩く姿勢から股関節や膝関節の進展や屈曲などの歩行の質を評価する機器を拝見させていただきました。まさに驚くことに、私が罹患している左膝関節骨折後の伸展不良が顕著に表れていました。そしてこの会社は、aLQという機器で、後ろ足から前に踏み込むときに1ニュートン力を加えて歩行アシストする器具も販売しています。こうした歩く姿勢の分析こそ、歩く質を高める一歩だと考えています。今後の製品化を期待したいです。

 また、歩くように提案しても、腰痛や膝痛をおもちの場合は、かえって痛めてしまうケースもあります。当院では、日本初の痛痛緩和パッチ、チューニングエレメントの販売を行う予定です。こうした痛みをおもちの方も、是非このパッチで痛みが和らぎ、運動療法が出来る体に戻れればと考えています。

 ただ歩けで終わらせない、そしてピッチをあげて歩くようにという提案だけ伝えるような無責任な診療から脱却し、少しでも患者さんに寄り添った治療が提案できるように努力してまいります。